私が財布から紙幣を出していると、表のガラスドアが開いて、五、六歳くらいの女の子が入ってきた。
顔を赤くし、必死の面持ちで、
「あのう、すいません」
と言った。
私の相手をしていた女性がはい、と言って女の子の方に向き直ると、彼女は、
「あのう、チーズケーキはひとつ何円でしょうか」
と丁寧な口調で尋ねた。
店員は女の子の必死の気配がおかしかったのか、
「四百三十円です」
と笑いながら応えた。
女の子は漫画のついた自分のガマ口を開け、二百円、三百円・・・、と声を出してお金を勘定していたが、
「ああ、ないー」
と悲しそうな声を出した。
そして、
「どうもありがとうございましたー」
と泣きそうな顔で言うと、ガマ口も閉めず一礼してガラスドアの方へ向かって駆け出した。
すると彼女にとっては厄日だったか、ドアの前で人と衝突し、ガマ口からお金をばら撒いてしまった。
子供にぶつかるとはなんという不注意な人間だろうと思って衝突相手を見ると、私の友人だった。
御手洗もさすがに悪いと思ったらしく、急いで屈み込むと、
「ああ、ごめんね」
と言いながら、女の子と一緒にお金を拾い集め出した。
「二百円、三百円、四百円・・・・・、あれえ、ほら、四百八十円あるじゃないか、チーズケーキが買えるよ」
と私の友人は、拾ったコインを女の子の小さな手に渡しながら言った。
「あれえ、本当だー」
と女の子は言った。
「駄目だよ、きちんと数えないと」
と、御手洗は笑いながら言った。
女の子は嬉しそうにコインを握りしめ、私の横に戻ってきた。
どうやら女の子はチーズケーキを買うことができるようだった。